私、懐かれる
†Case4:私、懐かれる
私の目の前でポカンとして突っ立ってる赤也君。
『あ、赤也君…?』
心の中で散々呼んでおいてなんだが、彼の名前が合ってるか実はちょっと自信が無かったり…。
も、もしかして間違ってた?
自信なさ気に目の前の少年を呼べば、ぴくりと肩が動いたからどうやら間違ってはいなかったらしい。
「え、あ、あんた…、今……」
やっと口を開いたと思えば、警戒心剥き出し。
まあ、目の前であんなの見せられれば無理もないか。
ちらりとブン太に助けを求めると、ブン太は困ったように頬をかいた。
「赤也、とりあえず落ち着けって。な?」
「これが落ち着いてられるっすか!?め、目の前でおかしなことが起きたんすよ!?」
とにかく宥めようと声をかけたブン太だったがそれは逆効果だったらしい。
私は赤也君と少し距離を詰めた。
赤也君はそんな私にびくりと肩を揺らす。
『あー…。簡単に話すと、あの生首は赤也君に取り憑いて生気を吸おうとしてたの。で、私がそれを見つけて祓ったってわけ』
ぱちぱちと瞬きをしていた赤也君は信じられないという顔だ。
それが普通の反応なんだから無理もない。
赤也君は俯いて考え込んでしまっている。
ブン太はそんな赤也君を心配そうに見つめるも、その心配はいらなかったようだ。
「あの、…俺切原 赤也って言うっす。さっきは取り乱しだしてすんません。生首とかそういうの信じられなくて。だけど、さっき起きたことは事実ですし、先輩に助けてもらったのも事実っす」
赤…切原君は俯いていた顔を勢いよく上げて、「俺、先輩の言うことまだちゃんと理解出来てないっすけど、でも先輩が嘘ついてるように見えませんし、俺、信じるっす!」と言った。
ブン太の後輩は心が綺麗で素直な性格らしい。
まだ全部は信じられないけど、それでも私のことは信じるってか。
『うん、それでいいよ、切原君』
††††††††††
あれ、私何かおかしいこと言っただろうか。
切原君がぴしりと固まった。
『き、切原君…?』
あれ、何かデジャヴュ。
そんなことを考えながら、切原君の顔の前でひらひらと手を振る。
はっ、とした切原君は私に噛み付く勢いでずいっ、と顔を近づけた。
「な、何で切原君なんすか!?」
どうやら彼が固まった理由は私の呼び方だそうだ。
わたわたと何故か慌てている切原君は可愛い。
幽霊とかに好かれやすいわけだ。
彼は心が綺麗なだけじゃなく、こんなにも可愛い。
『えっと…いけない?』
「だめってわけじゃないっすけど、何かむずむずするっつーか…。とにかく、俺のことは赤也でいいっすから!!」
『は、はあ…。あ、赤也君?』
「はい、なんすか名前先輩?」
にこりと可愛らしく微笑む彼の株が私の中で上がった。
何このこ、可愛い。
いきなり名前呼びなんだな、何て思ったが、あえてそこはつっこまないことにしよう。
呼んでみただけだよ、と赤也君に言うときょとんとして首を傾げた。
「名前、そろそろ教室戻らなきゃヤバイぜ」
『おっと、そうだね。バイバイ赤也君!』
手を振るとブンブンと手を振返してくれる赤也君。
緩む頬のまま、ブン太と並んで教室に向かうと、女子からの視線が痛い。
『あのさ、丸井。別々に帰らない?』
周りの目を気にしてブン太を苗字で呼ぶ。
ブン太もそれを察してくれたのか、「じゃーな、名字」と言って、一足先に教室に帰った。
††††††††††
「名前、お帰り。で、何の話だったのよ?」
教室に戻ると、興味津々のあやちゃんがずいっと顔を近づけてくる。
私は苦笑いしながら、特に何も無かったよと答える。
あやちゃんには私が幽霊を見えることは教えたが、祓えることまでは話していない。
だから言葉を濁すだけだった。
申し訳ないとは思うが、あやちゃんまで巻き込むわけにはいかないのだ。
「なんじゃ、てっきりブンちゃんからの告白だと思ったんに」
『うわっ、仁王君!!』
「プリッ」
いきなり背後に立つのは心臓に悪いから止めてほしいものだ。
何語だよ、とつっこむとピヨ、とまたわけの分からない言葉が返ってくる。
あやちゃんが「無駄よ、そいつ宇宙人だもの」と言って呆れたようにため息をついていた。
私が言うことじゃないけど、ホントにあやちゃんは変わってる。
普通、仁王君みたいな人を宇宙人扱いしないだろうに。
『告白なんかじゃなかったよ』
とりあえずそう答えると、仁王君はつまらなさそうに席に着いた。
相変わらず猫背なことで、だるそうに見える。
仁王君って色白で細くて猫背で、どこかはかなげな表情も人気の理由なのかもしれない。
ホント、幽霊だったらいいのにな。
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